まず、夫の星好きは異常というべきものがあります。皆さん、聞いてください。夫は、真冬の極寒のそれも山梨の河口湖の凍てつく冬の夜、鼻水さえも
　
凍りついてしまうような真夜中にたった一人で防寒具を身につけ、大きく重い機材をガレージの屋上まで運び出し、幸せそうな顔で星を見て一晩中過ごし

てしまう人です。しかも、そこで寝てしまったりするから呆れてしまうのです。

（もちろん、その間私は暖かい電気毛布の中で丸まって、子供らと一緒に猫のように寝ています）

星の写真を撮るために会社から帰宅し、たまにゆっくりしたいだろうなと思うような土曜日の夜、にわかにブツブツと独り言を言い出し、落着きがなくな

ったかと思うと「パパ、どこ行くの〜？」という子供らの声もどこ吹く風。何回にもわたって荷物を運び出し、三浦市の畑の中で○○○さえもしてしまう

ほど、写真撮影に専念してしまう根性を思うと何かやはり異様な感じさえしてくるのです。横須賀天文研究会に入ってからというもの、その趣味に拍車がか

かり、もう目つき、鼻つき、（失礼！主人は鼻がでかい！）顔つきがギラギラしてきて、まるで五時から男の○○純次のようであります。これほどまでに趣

味に専念している人が他にいるでしょうか？ しかし、私も夫と知り合い、「何をそんなに夜空を見つめて夢中になれるのか？」と今でも不思議に思えて

くることもあるのですが、星の美しい夜、神秘の姿を夫の望遠鏡の中に覗き見た時、そこに彼の人間性を見たような気がしたのです。広大な宇宙の星、それ

らは現実に埋もれきっている私たちにとって、ただ無造作に散らばっているものとしか思えないものでも、これが○○座、これが○○星雲、これが木星、土

星と教えられると、その美しさもさることながら、望遠鏡の中に繰り広げられる自然の神秘の世界に、こんな私でさえも驚きを感じることができたのです。

夫の星好きは小学生時代に発し、現在に至っています。夫の性格はこの趣味に象徴されるように神経質なほど繊細なのであります。インパルのホイールをは

いた白のハッチバックのシルビアに乗りながら、スキーやサーフボードを載せるのではなく、いつも押し込むのは天体望遠鏡です。最近では家族の生活とい

うものをほとんど脳裏から消してしまうほど、夜は晴れていると変光星観測、パソコン通信、休みの時でも一日中パソコンに向かって何か原稿を書いている

様子です。体の事も心配ですが、家族の方にも目を向けてもらいたいという気持ちが本音です。「星と私とどっちが大事なの？」という質問を浴びせると小

さくなって下を向いてしまう夫の姿は可愛くもあり、ちょっぴり憎らしくもあります。夫は視力が落ちたら星見を辞めるといっていましたので、早く視力が

低下することを望んでいる私（本当はウソです）は悪い妻です。

1989/03

家内より